先ごろ定年退職を迎えたS氏の隣家で、家の壁の塗装作業が始まりました。

業者が挨拶に回って来て、「ご迷惑をおかけしないように最善の努力をいたしますので、どうぞよろしくお願いします」とタオルを置いていきました。

翌日、業者が足場を組みにきたものの、次の日から二日間にわたって姿が見えません。『雨が降っているわけでもないのに、いったいどうしたのだろう』と、他人事ながらS氏は気になってしかたがありません。

ようやく四日目から塗装作業がスタートしたため、S氏は責任者に話しかけてみました。「おととい、昨日と作業をされませんでしたが、何か都合の悪い事があったのですか?」という問いに、責任者は恐縮した様子で答えました。

「二日間とも、朝から東風が吹いていたんです。このまま作業を進めると、お宅様にペンキの匂いが及ぶことがわかっていたので取りやめました」

業者の挨拶は、単なる社交辞令だと思っていたS氏。近隣に対しても気遣う姿勢に感服し、人に会うたびこの話をしているそうです。

 

『職場の教養』より」